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大阪高等裁判所 平成4年(ネ)2094号 判決

平成四年(ネ)第二〇九四号事件控訴人、同年(ネ)第二〇四四号事件被控訴人(以下、「第一審原告」という。)

林弘和

平成四年(ネ)第二〇九四号事件控訴人、同年(ネ)第二〇四四号事件被控訴人(以下、「第一審原告」という。)

林清子

右二名訴訟代理人弁護士

山本健三

浜本丈夫

平成四年(ネ)第二〇四四号事件控訴人(以下、「第一審被告」という。)

尾田浩之

右訴訟代理人弁護士

吉田訓康

平成四年(ネ)第二〇九四号事件被控訴人(以下、「第一審被告」という。)

安田火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

後藤康男

右訴訟代理人弁護士

山脇衛

主文

一  原判決中、第一審被告らに関する部分を次のとおり変更する。

第一審被告らは、各自、第一審原告らに対し、各七〇二万九九六四円及び各内六三七万九九六四円に対する平成元年一二月一一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第一審原告らの第一審被告らに対するその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用中、当審において生じた分及び原審において第一審原告らと第一審被告らとの間に生じた分を二分し、その一を第一審原告らの負担とし、その余を第一審被告らの負担とする。

三  この判決は、第一項中、第一審原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

一控訴の趣旨

1  第一審原告ら

(一)  原判決中、第一審被告安田火災海上保険株式会社(以下、「第一審被告安田火災」という。)に関する部分を取り消す。

第一審被告安田火災は、第一審原告らに対し、各一二八〇万〇七二四円及び各内一一六五万〇七二四円に対する平成元年一二月一一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は第一、二審とも第一審被告安田火災の負担とする。

(三)  第一項中、金員支払部分につき、仮執行の宣言

2  第一審被告尾田浩之(以下、「第一審被告浩之」という。)

(一)  原判決中、第一審被告浩之敗訴部分を取り消す。

第一審原告らの第一審被告浩之に対する請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は第一、二審とも第一審原告らの負担とする。

二事案の概要

1  第一審原告らの請求の概要

次のとおり付加、訂正するほか、原判決二枚目裏末行の「本件は」から同三枚目表九行目までのとおりであるから、これを引用する。

「被告仁志」を「分離前の第一審被告仁志(以下、「仁志」という。)」と読み替える。

原判決三枚目表九行目の「被告安田火災に対して、」の次に「自家用自動車総合保険普通保険約款六条による直接請求権に基づいて、」を加える。

2  争いのない事実

原判決三枚目表一一行目から同四枚目表三行目までのとおりであるから、これを引用する。

3  争点

(一)  亡昭宏死亡による損害額

(1) 逸失利益、慰謝料、葬儀費用、弁護士費用

(第一審原告らの主張)

逸失利益 三一三〇万一四四九円

慰謝料 一六〇〇万〇〇〇〇円

葬儀費用 一〇〇万〇〇〇〇円

弁護士費用 二三〇万〇〇〇〇円

自賠責保険金 △二五〇〇万〇〇〇〇円

合計 二五六〇万一四四九円の二分の一である一二八〇万〇七二四円

(2) 好意同乗による減額が認められるかどうか。

(第一審被告浩之の主張)

亡昭宏は、仁志と友人関係にあり、本件事故当日、仁志の運転する第一審被告車に同乗して、亡昭宏の女友達の自宅を訪ねた後、女友達三人と遊びに出かけた帰途に本件事故に遭ったものである。

亡昭宏は、本件事故当時、第一審被告車の助手席に同乗していたものであり、信号を無視して本件事故現場の交差点に進入してきた車両を発見しながら、漫然と仁志運転の第一審被告車がそのままの速度で走行することを許容していたものである。

従って、亡昭宏は、第一審被告車の好意同乗者として、損害額の算定に当たり、相当の減額がなされるべきである。

(二)  第一審原告らの第一審被告安田火災に対する保険金請求権

第一審被告浩之を記名被保険者とする本件自動車保険契約において、仁志が前記約款の運転者家族限定特約条項の同居の親族に該当するかどうか。

(第一審原告らの主張)

仁志の住居は、奈良県宇陀郡曽爾村の実父尾田淳司(以下「実父淳司」という。)方にあり、実父淳司と同居している実兄第一審被告浩之の同居の親族にあたるというべきである。

すなわち、仁志は、大阪市北区内にあるマンション「エンブレム」を賃借した後も週一、二回の割で実父淳司方に帰宅しており、又、外車の輸入代行販売業による収入だけでは生活を維持できず、実父淳司の営む建築塗装業を手伝うなど実父淳司の協力を得て「エンブレム」の家賃を支払い、外車の輸入販売業を続けることができたのである。

運転者家族限定特約条項は、被保険者の範囲を運転者及びその家族に限定しようとするだけのものであるから、仁志のように週一、二回の割で帰宅しているような者であっても、同居の親族に含まれると解するのが相当である。

昭和六一年八月二三日付本件自動車保険契約において、運転者年齢を限定しなかったのは、被保険者として仁志を含めていたからであって、本件事故当時における本件自動車保険契約においても、同様の趣旨であった。

(第一審被告安田火災の主張)

仁志の住居は、大阪市北区内のマンション「エンブレム」にあり、第一審被告浩之の同居の親族にあたらないというべきである。

保険期間を昭和六一年八月二三日から昭和六二年八月二三日までとする本件保険契約の運転者家族限定特約条項では、被保険者の範囲を実父淳司の親族とした上、運転者年齢条件も限定をしていなかったが、その後の本件保険契約の運転者家族限定条項では、被保険者の範囲を第一審被告浩之の親族に変更した上、運転者年齢条件を二一才未満不担保と変更している。本件保険契約の運転者家族限定特約条項では、当初、仁志が昭和六一年六月ころに実父淳司方を出て大阪市東成区内の親類方に下宿したことから、下宿先から帰宅した際に第一審被告車を運転することが考慮され、仁志が被保険者に含まれていたが、その後、仁志が昭和六二年三月ころに下宿先からその付近のアパートに転居したことから、右のような考慮がされなくなったため、仁志が被保険者に含まれなくなったものとみるのが相当である。又、仁志は、自家用自動車を所有しており、本件事故当日、第一審被告浩之所有の第一審被告車を臨時的に使用しただけである。従って、本件事故当時の本件保険契約においては、仁志が第一審被告車を使用することは予定されていなかったものとみることができるのである。

三争点に対する判断

1  第一審被告浩之の運行供用者責任

第一審被告浩之は、本件事故当時、第一審被告車を所有していたところ、これを実弟仁志に無償で貸与していたことが認められるから(原審における仁志本人)、その他特段の事情の認められない本件のもとにおいては、本件事故について自賠法三条に基づく損害賠償責任がある。

2  亡昭宏死亡による損害額(争点(一))

(一)  逸失利益、慰謝料、葬儀費用

原判決五枚目裏三行目から同六枚目裏一行目までのとおりであるから、これを引用する。

以上合計すると、四七一九万九九一〇円となる。

(二)  好意同乗による減額

亡昭宏は、仁志と友人関係にあり、本件事故当日、仁志の運転する第一審被告車の助手席に同乗して、亡昭宏の女友達の自宅を訪ねた後、居合わせた女友達三人と食事に出かけた帰途に本件事故に遭ったものであることが認められる。(原審における仁志本人、当審における第一審被告浩之本人)

本件事故の状況は、原判決四枚目表一一行目から同五枚目表四行目までのとおりであるから、これを引用する。

右認定事実によると、亡昭宏には、第一審被告浩之主張のような同乗者としての過失があったものと認めることはできないが、右認定の経緯で第一審被告車に同乗し、本件事故に遭ったものであるから、好意同乗者として、信義則上、右損害額の二割を減額するのが相当であるから、損害額合計は三七七五万九九二八円となる。

(三)  損害の填補

第一審原告らは、自賠責保険から二五〇〇万円の支払いを受けたことが認められるから(争いがない。)、これを前記損害額から控除すると、一二七五万九九二八円となる。

(四)  弁護士費用

本件事案の概要、前記認容額、その他の事情を考慮すると、弁護士費用としては、一三〇万円が相当である。

(五)  まとめ

以上のとおり、第一審原告らは、亡昭宏の相続人であり、第一審被告浩之に対し、本件事故による損害賠償金として、それぞれ右損害額合計一四〇五万九九二八円の二分の一である七〇二万九九六四円及び内六三七万九九六四円(弁護士費用一三〇万の二分の一である六五万円を控除したもの)に対する本件事故発生の日である平成元年一二月一一日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払請求権を有するものということができる。

3  第一審原告らの第一審被告安田火災に対する保険金請求権(争点(二))

(一)  第一審被告浩之を記名被保険者とする本件自動車保険契約において、仁志が前記約款の運転者家族限定特約条項の同居の親族に該当するかどうかについて、検討する。

(1) 仁志の住居と生活状況については、次のとおり付加、削除するほか、原判決七枚目表二行目から同九枚目表三行目までのとおりであるから、これを引用する。

原判決七枚目表二行目の「被告仁志本人」の次に「、当審における第一審被告浩之」を加える。

同八枚目表五行目の「その際」から同八行目の「約二〇〇キロメートルとなる。」までを削除する。

同九枚目表一行目の「部屋がある。」の次に「仁志の八畳の部屋には、仁志が大阪市内の親類宅、アパート、マンション等を賃借した後も、身の回りの家具、衣類等が殆どそのまま残されていた。仁志は、大阪市内にマンションを賃借し、外車の輸入代行販売業を始めた後も、自らの生活費を賄うことができず、週一、二回の割で実父淳司宅に帰宅し、淳司の営む建築塗装業を手伝って月一五万円から二〇万円程度の援助を受けざるを得ない状況にあっただけでなく、必要に応じて実父淳司宅に帰宅すれば、同淳司、実兄浩之らの家族としていつでも一緒に食事をしたり、寝泊りのできる状態にあった。」を加える。

(2)  運転者家族限定特約条項のいう記名被保険者の同居の親族にあたるかどうかは、同条項の趣旨に即して考えるのが相当である。そして、同条項は、記名被保険者と身分的、経済的に一体性が強く、被保険自動車の使用頻度の高いと考えられる一定範囲の親族に被保険者の地位を与えたものと解するのが相当である。従って、同条項のいう記名被保険者の同居の親族とは、同一家屋に居住しているとみることができれば十分であって、同一生計を営んでいる必要はなく、扶養関係がある必要もないというべきである。

これを本件についてみると、先に認定した事実によると、仁志は、実父淳司や実兄浩之らと生活していた奈良県宇陀郡曽爾村の実父淳司宅を出て、大阪市内に下宿やアパート、マンションを賃借し、室内に家具等日常生活用品を置き、事務所としての表示を明確にしないまま、寝泊りするようになったからといっても、それは、あくまで、通勤の便宜と独立して始めた仕事のために寝泊りをする場所を必要としたことによるものであって、しかも、短期間に転居が繰り返されていること、仁志は、奈良県宇陀郡曽爾村の実父淳司宅から大阪市内の下宿、アパート、マンションに転居する都度、住民登録を移しているが、住民登録の移転も生活の本拠を移すことなく形式的になされる場合のあることを否定できないこと、仁志は、大阪市内に下宿、アパート、マンションを賃借し、住民登録を移した後も、奈良県宇陀郡曽爾村の実父淳司宅の八畳の部屋には従前どおり仁志の身の回りの家具、衣類を残しており、又、大阪市内のマンションで独立した生活を営むまでに至らず、週一、二回の割で帰宅して淳司の営む建築塗装業を手伝うことによって経済的援助を受けざるを得ない状況にあり、しかも、実父淳司宅に帰宅すれば、淳司、実兄浩之の家族としていつでも一緒に食事をしたり、寝泊りのできる状態にあり、また頻繁に実兄浩之所有の本件被保険自動車を乗り回していたし、浩之も家族としてこれを当然のことと許容していたことが認められる。仁志は、本件事故の取調担当警察官に対し、住所を大阪市内のマンション「エンブレム」と申告したからといっても、それは形式的な住民登録の住所をそのまま述べたに過ぎないともみることができるのである。

そうだとすれば、前記運転者家族限定特約条項の趣旨からみて、仁志は、大阪市内のマンション「エンブレム」を賃借した後も引き続き、奈良県宇陀郡曽爾村の実父淳司宅に住居を残しており、その家族の一員として経済的にも生活の上でも一体である実態を保っていたものであるから、淳司と同居している実兄浩之の同居の親族にあたるものとみるのが相当である。

なお、仁志が第一審被告車とは別に自家用自動車を所有していたり、本件保険契約の運転者家族限定特約条項の被保険者の範囲が実父淳司の親族から実兄浩之の親族に、運転者年齢条件も無限定から二一才未満不担保と変更されたからといって、特段の事情の認められない本件のもとにおいては、そのことが直ちに先の認定判断を妨げることにはならないというべきである。

(二)  以上によれば、第一審原告らは、前記約款六条により、第一審被告安田火災に対し、記名被保険者である第一審被告浩之に対して請求しうる前記損害賠償金と遅延損害金の支払請求権を有するものということができる。

四結論

以上のとおり、第一審原告らは、各自、第一審被告らに対し、各七〇二万九九六四円及び各内六三七万九九六四円に対する平成元年一二月一一日から支払い済みまで年五分の割合による金員の支払請求権を有するものと認めることができる。

よって、第一審原告らの第一審被告らに対する本訴請求は、右の限度で理由があるからこれを認容し、その余は、失当として棄却すべきであり、右と一部異なる原判決を右のとおり変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山本矩夫 裁判官 福永政彦 裁判官 山下郁夫)

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